スケーター達の間で、いつの時代も好みが分かれるオイルベアリングとグリスベアリング。
ダウンヒル専門のスケーターでない限り、自分のスケートスタイルに合わせて選ぶ事があったり、気分によって常に変えているスケーターも居るでしょう。
今回は、そんな2種のベアリングの特性や違いなどをざっくりとまとめました。
念の為この記事でも伝えておきますが、まずAbec(エイベック)の事は全て忘れて下さい。
Abecはスケートボードに全く関係無い規格の数値なので、絶対に騙されたり気にしない事。
Bones Bearings(ボーンズベアリングズ)が公式HPでいかにスケートボードとAbecは何の関係も無いのかを解説しているのと同様に、更に詳しくAbecの本来の意味とその変化で何が変わるのかをこちらの記事で解説しました。
恐らく日本語でAbecを解説しているのはこの記事のみだと思います。
Abecが何を示す数値で、その変化で何が分かるのかをまだ理解していない人はこちらからどうぞ。
オイルベアリングの特徴
(画像はBones race reds)
オイルベアリングの特徴は以下の通り。
- 低粘度の為、最高速度の上限がグリスベアリングに比べて上がる
- 加速し易いが減速も早い
- 箱を開けた時から最適の状態
- 汚れに弱く定期的なメンテナンスが必要
低粘度の為、最高速度の上限がグリスベアリングに比べて上がる
走行時の回転抵抗がより少なくなるので、速度の上限が上がります。
例えば、あるスケーターがプッシュをした際、グリスベアリングでは10km/hだったのに対してオイルベアリングでは15km/hに到達するといったニュアンス。
どちらの場合も同じ力で走行する前提で、あくまでも上限のお話。
故にあえて “最高速度の上限が上がる” といった表現をしました。
当たり前の事ですが、強くプッシュしなければ当然オイルベアリングだろうがグリスベアリングだろうがスピードは出ません。
加速し易いが減速も早い
上の項目でも述べましたが、オイルベアリングが低粘度という事は回転抵抗も少ないのでプッシュをした際に加速がし易いです。
しかし、その分ベアリングへ伝わる様々な方向への負荷や路面からの抵抗がよりダイレクトに伝わるので、グリスベアリングに比べると減速するのが早いです。
よく「オイルベアリングの方がスピードが出ます」といったように紛らわしい表現をしているスケートボードまとめサイトやスケートボードパーツオンラインショップが多いのですが、回転抵抗が少ないと加速がし易いので体感的にスピードがより出ているように感じるのは当然の事なのです。
オイルベアリングを装着してスケートをすれば無条件で速く走行が出来る訳ではありません。
それをオイルベアリングにするだけでグリスベアリングよりも必ず速く走行出来るようになると誤解する人が居ますが、グリスベアリングでも速度上限までの加速やその上限が劣るだけで、グリスが馴染んだ性能が良いベアリングであればそれなりに速度も出ますからね。
(加速がし易いという事は、グリスベアリングよりも早く最高速度に到達するという意味ですね)
プッシュの距離はそこまで伸びないけれど加速や最高速度を重視するのか、この辺りは好みのスタイルやスケートする環境で大きく変わってくるところ。
同じ距離を走行するのにオイルベアリングの場合はプッシュの回数がより多くなる場合が多いですが、これもどこまで影響するかはトラックとウィールとベアリングの位置関係、そして走行する路面の状況でも変化します。
箱を開けた時から最適の状態
これがオイルベアリングユーザーにとっては1番大きなメリットだと感じている人も多いのではないでしょうか。
箱を開けてウィールにセットすれば、プリルーブドゥ(既にベアリング用オイルが注入され馴染んだ)状態なので、すぐにそのままスケートが可能。
例えば、パークやランプなどでハードにトリックをしたり着地で常に大きな衝撃を与えているスケーターは、特にベアリングも壊れやすいので常に予備のベアリングを持ち歩いているスケーターも多いはず。
壊れたベアリングを新しいベアリングと交換し、すぐにスケートに戻れる訳です。
詳細はグリスベアリングの項目で解説しますが、グリスベアリングはグリスが馴染むまで本来の性能を発揮しないので、こうした準備走行が面倒な為にオイルベアリングを使用している人が大半だと思います。
汚れに弱く定期的なメンテナンスが必要
オイルベアリング用のオイルは基本的に低粘度なので、汚れが入ると回転性能に影響し易く、定期的なメンテナンスを小まめに行う必要があります。
メンテナンスの頻度は走行する距離に寄りますが、オイルが切れてきたタイミングや汚れが詰まってきたタイミングでのメンテナンスが望ましいです。
メンテナンス方法詳細は別の記事でまとめる予定なので、こちらでは省きます。
極稀に初心者スケーターYoutuberなどが、スケートパークでセッション中にウィールやベアリングをトラックから外す事無く、ベアリングシールドだけを外し汚れたベアリングにオイルさしている事がありますが、汚れをベアリングの更に奥へと押し込みベアリングの寿命を縮めているだけなので絶対に止めましょう。
これはBones Bearingsのベアリング説明書でも記載されていて、公式でも絶対にやってはいけない行為だと警告しています。
(オイルをさした瞬間はより滑るように感じても、すぐに回転が悪くなる)
また、メンテナンスが面倒なスケーターは低価格でコスパが良いベアリングBones BearingsのRedsなどをある程度使用し、ベアリングを使い潰したらメンテナンスをせずに、常に新しいベアリングに買い替えている場合もあります。
グリスベアリングの特徴
(画像はLandyachtz spaceball bearings)
グリスベアリングの特徴は以下の通り。
- 中低速からの伸びが良く、オイルベアリングよりもプッシュの距離が伸びる
- 加速は遅いが減速し難い
- ベアリングにグリスが馴染み本来の性能を発揮するまで慣らしが必要
- 汚れに強く基本的にはメンテナンスフリー
中低速からの伸びが良く、オイルベアリングよりもプッシュの距離が伸びる
グリスが高粘度の為ベアリングのボールとインナートラックの間に入り良く滑らせてくれる(間からなかなか抜けない)ので、1度スピードに乗ると速度を維持し易く必然的にプッシュの距離が伸びます。
加速する際の初速こそ速くないものの、中低速からぐっと距離が伸びてくるイメージでオイルベアリングとは真逆。
加速は遅いが減速し難い
ベアリングの回転に対する抵抗がより大きいという事は、当然オイルベアリングに比べて加速は遅くなります。
しかし、1度回転し始めるとグリスベアリングは回転が伸びやすく止まり難いので、減速はオイルベアリングよりも緩やかです。
よく「回転抵抗がオイルベアリングよりも大きいのだから、より距離が進まないはずなんじゃないの?」と誤解している人が居るのですが、1度出た回転スピードを維持する性能は全く別の話なんですね。
そうそう、スケートボードに組んだウィールを手で回転させて回転時間が長い程ベアリングの性能が良いと誤解している人も、ベアリングの構造とベアリングがスケートの走行にどう作用するかを理解出来ていない事になるので要注意。
その回転時間は何の意味も無く、スケートボードの走行スピードやスムーズさには全く関係ありません。
実際に大半のグリスベアリングは手で回転させるとすぐに止まるのに、より長時間回転しているはずのオイルベアリングよりもプッシュ距離が伸びている訳ですからね。
詳しくはこちらの記事で解説しています。
例えば、綺麗なコンクリート面の上にオイルを塗った面と、グリスを塗った面をそれぞれ用意してその上を裸足で滑る事を想像して下さい。
走って勢いをつけてそれぞれの面に飛び乗り滑るとします。
オイルを塗った面は抵抗が少ない分、足を地面につけた際の初速は速いでしょう。
しかし、いつまでも足裏にオイルが留まる訳でもなく、コンクリート面からの摩擦もより多く受けやすいので比較的早く止まり距離も伸びません。
一方でグリスを塗った面に関しては、飛び乗った直後は抵抗がより大きく初速こそ速くないものの、滑る足裏に対してグリスが留まり続け、コンクリート面の凹凸や摩擦を受けにくく距離は伸びます。
粘度が低いオイルはコンクリート面に垂らした瞬間からその形状を変え広がり続け必然的に薄く、一方で粘度の高いグリス垂らしたその場に留まる事が大きな要因。
(オイルを厚く塗る事は出来ないけれど、グリスを厚く塗る事は可能)
例え話が極端で解り難い部分もあったかも知れませんが、オイルベアリングとグリスベアリングの構造上、グリスベアリングの方が速度維持性能に優れプッシュの距離が伸びるという事を覚えておけばOKです。
ロングボードでグリスタイプのビルトインベアリングがよく使用されるのは、デック(日本ではデッキ)が長く重いボードになる程プッシュした後の勢いが増す為、この速度を維持してくれるグリスベアリング特有の効果が非常に高くなり、少しのプッシュでもゆったりと距離が伸びるスケートが出来るからです。
(ロングボードフリースタイルやロングボードダンシングは特に速度よりも速度維持や伸びの方が重要)
一般的にはWB(ウィールベース)が長いボード程スピードが出ますが、ロングボードは元々その他のボードに比べるとWBが長く確保出来るので、加速や最高速度の上限を気にしなくても十分速く、ロングボード + グリスベアリングの組み合わせはスピードと速度の持続力のバランスが良いのです。
ベアリングにグリスが馴染み本来の性能を発揮するまで慣らしが必要
ここまで良い事尽くめだったグリスベアリングですが、唯一人によっては欠点として捉え面倒に感じる部分があります。
それが、グリスが完全に馴染むまで本来の回転性能を発揮しない事。
オイルベアリングを選ぶ人の多くが、この作業が面倒だからと答える人も多いのではないでしょうか。
グリスベアリングは走行距離にも寄りますが、一般的には数キロクルージングをしたり1~2回程度のパークセッションが必要とされています。
(これはベアリングの種類やパーツ構成によっても全く異なるので、実際にライダーがスケートをしながらベアリングの変化を感じるしか確認する方法はありませんが、確実に変化には気づきます)
ただ、グリスベアリングユーザーの多くからは「スケートする度に必ずより良い状態へしか変化しないので損はしない」といった意見を見聞きします。
また、次の項目で解説しますがメンテナンスフリーというメリットを考えると、この馴染ませる作業の方が圧倒的に労力をカット出来るといった意見も。
(小まめにメンテナンスが必要な事を考えると、馴染ませる時間が多少必要でもメンテナンスフリーの方がトータルで見た際の労力が少なくて済むといった意味)
汚れに強く基本的にはメンテナンスフリー
高粘度の潤滑剤であるグリスはオイルと比べると水分や汚れに強く、グリスベアリングは基本的にメンテナンスフリーだと言われています。
(オイルベアリングに比べ、グリスベアリングは細部まで汚れが入り難い)
寿命が長いグリスベアリングの場合、2~3年メンテナンスをしなくてもその性能が落ちないと言われている種類も。
日本国内では販売されていないせいか全く見ないですが、海外ではBones Redsと同じぐらいコスパ最強として知られる人気のグリスベアリングのZealous(ジーラゥス)ビルトインベアリングも、よく数年メンテナンスしていないのに凄い回転すると評判。
ただし、いくらメンテナンスフリーだと言っても何年も乗り続けベアリング内部が汚れてきたら、オイルベアリング同様にメンテナンスが必要です。
オイルベアリングに向いているスケートスタイル
- トリック (ストリート、パーク、ランプ)
- クルージング
- ダウンヒル (レース)
- カービング
- フリースタイル
- ダンシング
ストリート、パーク、ランプなどに関してはオイルベアリングでもグリスベアリングでもお好みです。
よくベアリングを壊す程ハードに乗ったりトリックする場合は、潤滑剤のタイプを気にするよりもビルトインベアリングに変えて、左右に移動するウィールの遊びを無くしてあげる(ナットを最後まで回しきる)事が1番壊れにくくする近道です。
街中を移動するクルージングには正直オイルベアリングよりもグリスベアリングの方が向いていると思いますが(次の項目で解説)、ひとけの無い駐車場や土手道などを全力プッシュして流したい場合はオイルベアリングの方が向いていると言えるでしょう。
ダウンヒルやダウンヒルレースに関しては、減速後にすぐに加速し可能な限り早く最高速度に到達しつつ、その速度を維持したいのでオイルベアリング一択。
ベアリングの性質上や構造上でも、グリスベアリングに比べてオイルベアリングの方がより速度の速い回転に対応出来るからです。
カービング、フリースタイル、ダンシングに関しては、オイルベアリングを選ぶとしてもビルトインベアリングタイプのものであれば相性が良いと思います。
グリスベアリングに向いているスケートスタイル
- トリック (ストリート、パーク、ランプ)
- クルージング
- カービング
- フリースタイル
- ダンシング
ストリート、パーク、ランプはどちらのタイプでもお好みだとオイルベアリングに向いているスケートスタイルでも書きましたが、これらのシーンでもっともっとグリスベアリングユーザーが増えても良いのではないか?と個人的には思っています。
と言うのも、グリスが1度馴染んだベアリングであれば、スケートパークの整ったコンクリート面はオイルベアリング以上に止まらず進み続けるので、ゆったりスケートしながらトリック練習に集中したいスケーターにもおすすめなんですよね。
実際に、トリック用のレギュラーボードに乗ってパークでトリックを練習するなら、多少加速が必要な場面はあっても最高速度がそこまで重要じゃない事の方が多く、ほとんどのトリックは十分な助走があれば加速が足りずにトリックが成功しないといったパターンも少ない。
(ちゃんとしたパークなら、助走する為のスペースなども考慮して作られているので)
そもそも整ったパークの路面をハードウィールでスケートする時点で、物理的にスピードは勝手に出るもの。
田舎の誰も居ないようなローカルストリートを常にトップスピードで全力プッシュする場合は別として、スピードを出してスケートしないような街乗りクルージングなら、プッシュの距離が伸びる分ゆったり乗れるのでグリスベアリングもおすすめですよ。
カービング、フリースタイル、ダンシングに関しては、グリスベアリングを選ぶとしてもビルトインベアリングタイプのものであれば相性が良いと思います。
オイルベアリングとグリスベアリングの違いまとめ
- オイルベアリングでもグリスベアリングでもスピードは出せるが、加速と速度上限が変わる
- オイルベアリングは加速重視、グリスベアリングはプッシュの距離重視
- オイルベアリングは小まめにメンテナンス、グリスベアリングはメンテナンスフリー
- オイルベアリングは箱から出したらベストな状態、グリスベアリングはグリスを馴染ませたら本領発揮
スケート文化が定着していない分ある程度仕方ないのかも知れないけれど、未だにグリスベアリング=スピードが出ない初心者向けベアリングだと勘違いしている日本人が多いな~、という印象が個人的には非常に強いです。
この記事の冒頭で解説したように、Abec(エイベック)が未だにスケートボードの走行性能に関係あると思って、スケートボードパーツについて何も理解していない人が日本人で多いのが正に良い例ですね。
間違った知識を持った人が間違ったまま他人に教えていたり、そもそもショップの店員すら正しくAbecを理解していなかったり、メーカーがわざと誤解するように仕向けていて鵜呑みにしたスケーター達が騙されていたり、etc…。
詳細はこちらの記事で解説しています。
ダウンヒルレースなどの特殊な環境は除き、オイルベアリングとグリスベアリングどちらの方が優れているといったものではなく、どちらもメリットとデメリットがあります。
オイルベアリングを何度もメンテナンスし続けて使用する労力を考えると、1度グリスを馴染ませてしまえば長くて数年メンテナンスをせずに乗り続けられるグリスベアリングの方が賢い選択だというスケーターも居ますが、結局最後は好みですね。
どちらも乗った感覚を体で感じて、どちらの方が自分のボードと普段スケートする環境やライディングスタイルに合っているのかで選べば良いのではないかと僕は思います。